認知症ABC

認知症の症状や治療について、
わかりやすく解説します

監修:橋本 衛 先生
近畿大学医学部 精神神経科学教室
主任教授

4.認知症の治療

薬を使った治療とそれ以外の治療

認知症の治療法は、大きく分けて「薬物療法」と「非薬物療法」があります。薬物療法と非薬物療法は「治療の両輪」ですので、どちらか一方を選ぶのではなく、併用することで相乗効果が期待できます。

薬物療法

認知症の治療薬は、症状改善薬と疾患修飾薬の2種類があります。症状改善薬は、残存する神経細胞を刺激することにより、低下した認知機能を改善する治療薬で、アルツハイマー型認知症に対して4つの薬剤が、レビー小体型認知症に対して1つの薬剤が使用できます。一方疾患修飾薬は、認知症の原因そのものを取り除き、病気の進行を抑える薬です。2023年12月に早期のアルツハイマー病に対して、初めて疾患修飾薬が発売されました。
BPSDに対しては、患者さんの症状や状況に応じて薬物治療が検討されます。BPSDの治療には、統合失調症やうつ病などに用いられる薬剤が主として使用されますが、それらの中には、認知症患者さんの死亡率の上昇が報告されているものや科学的根拠が不十分なものがあります。そのためBPSDに対する薬物療法は、非薬物療法を十分に行っても効果が得られなかったり、希死念慮や暴力といった緊急性が高い場合に限って、本人や周囲の人の安全を守るために使用することが原則です。

非薬物療法

薬物療法以外の治療法を非薬物療法と言います。認知機能低下には薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。
BPSDに対しては、非薬物療法を薬物療法より優先的に行うことが原則とされています。その原因となりうる身体状態の変化や、ケアや生活環境が適切かを評価し、環境調整としてデイサービス等の介護保険サービスの利用も検討します。
非薬物療法はその人らしさを尊重するパーソンセンタードケアを基本とすることで、BPSDを軽減するともいわれています。

介護施設の回想法のイメージ
回想法 昔の懐かしい思い出や経験を振り返って語り合うことで、精神の安定や自尊心の回復が期待されます。
バリデーション療法 質問を交えながら積極的に本人の訴えを傾聴し、本人の気持ちに寄り添うコミュニケーション技法です。自尊心の回復や不安の軽減などが期待されます。
運動療法 運動を通じて関節機能の改善や筋力増強など身体機能の改善を図ります。認知症の予防や認知機能の改善にも効果が期待されます。
音楽療法 音楽を聴く、歌う、楽器を鳴らす、音楽に合わせて身体を動かすなどによって、不安の軽減、感情の表出、リラクゼーションなどの効果が期待されます。
心理教育 家族介護者に対して行われるもので、病気への理解を深め、日常生活の中での困りごとへの対処や本人との向き合い方などを学ぶことで介護ストレスの軽減や心理的負担の軽減が期待されます。