双極性障害(双極症)ABC

双極性障害早わかりガイドです

監修:加藤 忠史 先生
順天堂大学医学部精神医学講座
主任教授

6.どんな治療があるの?

3要素

双極性障害は、早期に正しい治療を開始すれば、症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができる病気です。ここではその治療法についてみてみましょう。
双極性障害の治療目標は、躁状態やうつ状態から回復し、再発を予防することにあります。この病気は再発を繰り返すたびに次の再発までの期間が短くなり、悪化しやすくなりますから、最も重要なのは再発を予防することです。
具体的には、薬物治療と心理社会的治療が用いられます。

薬物治療

双極性障害、特に双極I型の薬物治療は、長期間にわたって継続していく必要があります。
薬物治療には、気分安定薬や抗精神病薬を使いますが、一番大切なことは、病気を受け入れ、薬を飲み続けましょうということです。それにより、症状を安定させコントロールしながら社会復帰することができるようになります。
気分安定薬は双極性障害の躁状態とうつ状態の治療と予防に効果のある薬で、双極性障害薬物治療の基本となります。もう一方の抗精神病薬は気分安定薬と一緒に使うことにより、躁症状の治療に効果を発揮します。
詳しくは「お薬について」をご覧ください。

心理社会的治療

心理教育=患者さん自らが疾患について学習し正しく理解することで、病気を受け入れコントロールできるようになることが目的です。そのため、心理教育は発症の初期に大変重要です。たとえば、日々の自分の気分や症状を「眠りと気分の記録表」に記入してみると、自分の症状を客観的に捉えることができるようになります。

家族療法=双極性障害に対する家族の理解を深め、患者さんと家族が協力して病気に立ち向かえるようにすることを目的にしています。再発を防止するためには服薬の継続に加え、家族の協力が大変重要だからです。とくに、激しい躁状態は家族にとっても大きな負担となり、たとえそれが病気によるものだとわかっていたとしても、患者さんに対しマイナスの感情を抱いてしまいがちです。そのような感情は患者さんに伝わって、さらなるストレスが病状の悪化を招く、といった悪循環に陥りがちです。家族療法はこのような悪循環を断ち切るためにも、有効な治療法です。

認知行動療法=うつ状態では物事の考え方が否定的になり、些細なことでも自分を責めてしまいがちです。「○○ができなかった」ではなく、「△△はできた」と肯定的に捉える練習をすることで、うつ状態を乗り切るための考え方を身につけるのが目的です。

対人関係・社会リズム療法=双極性障害では社会(生活)リズムの乱れが症状の悪化の誘因となることが知られています。対人関係・社会リズム療法は、対人関係から生じるストレスやこの病気にかかってしまったことに対するストレスを軽減させる対人関係療法と、社会生活のリズムを規則正しく整えることを目的とする社会リズム療法を組み合わせたものです。
対人関係療法は、現在の対人関係の問題(ストレス)を解決し、家族や職場・学校の仲間、友人などとの良好な人間関係を回復させ、再発を防ぐために行います。よい対人関係ができると、周囲の人たちに病気を受け入れてもらうことができ、サポートを受けることができますから、治療の動機づけと症状の改善につながります。
社会リズム療法では、起床や出勤、夕食などの時間や他人から受けた刺激の度合い、イベントなどを記録することで、自分の生活リズムがどのようなものか、どんな場合に自分の社会リズムが不規則になりやすいかを理解し、修正できるようになります。一目で生活のリズムがわかるような、ご自分の生活に合わせた表を作ってみることをおすすめします。
対人関係・社会リズム療法についてさらに詳しく知りたい方は、下記の本が参考になります。
・水島広子著,『対人関係療法でなおす双極性障害』,創元社,2011

社会生活のリズム
治らない病気なの?

双極性障害は再発を繰り返しやすい病気です。再発しないようにするためには規則正しい生活を送るなどの注意をしながら、多くの場合、長期にわたって薬を飲み続ける必要があります。適切な治療を継続すれば症状を抑えて普通の生活を送ることができますし、そうやって仕事を続けている方もたくさんいらっしゃいます。糖尿病や高血圧と同じように、薬を飲み続けることによって病気をコントロールし、普通の生活を送ることができますので、心配しすぎて逆にストレスにならないように気をつけたいものです。