自閉スペクトラム症への対応の基本
社会生活を助ける2つのスキル
自閉スペクトラム症の子どもは、自分の得意なこと(できること)と苦手なこと(できないこと)がはっきりしています。得意なことを伸ばし、苦手なことは他の人に手伝ってもらいながら社会生活に必要な力を育むために、次の2つのスキルをバランスよく身につけることが大切です。
自律スキル
自分の得意なこと・苦手なことを理解し、できることを着実にこなすスキルです。苦手なことに対しては無理をさせず、本人が「できない」と伝えられるようにします。成功体験を積み重ねていくことで自信と自己肯定感を育むことにつながります。
ソーシャルスキル
わからないことやできないことは人に聞いたり、手伝ってもらったり、自分にできるやり方で人に相談するスキルと、社会のルールを順守するスキルです。自閉スペクトラム症の子どもは臨機応変に対応したり、空気を読んだりすることは苦手ですが、具体的に示されて納得できたルールや決まりごとを守ることは得意です。家庭や学校生活での決まりごとを一定のルールとして示し、守るよう教えましょう。その際、ルールを途中で急に変更・修正すると自閉スペクトラム症の子どもには理解が難しくなります。なるべく突然のルール変更は避け、変更の必要がある場合には前もって本人が納得できるように説明しましょう。
また、「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」の習慣を身に付けられるよう、保護者は子どもからの報告・連絡・相談には必ず応じて、「人に話して良かった」という経験を幼少期から積み重ねることが大切です。
特性に合わせた生活⽀援で毎日を暮らしやすく
自閉スペクトラム症の子どもは独特の発達スタイルをもっています。日常生活の中で子どもがストレスを感じずに済むように、その子の特性に合わせて生活環境を見直したり、工夫したりすることが支援の基本です。支援の方法にはさまざまありますが、子どもと保護者にとって負担になり過ぎないよう、お子さんに役立ちそうなことからできる範囲で試してみると良いでしょう。
「見える化」で子どもの理解を助ける-「構造化」
自閉スペクトラム症の子どもは「いつから」「いつまで」「どこで」「なにを」「どのように」するのかの見通しが立たないと不安を感じます。構造化はそれらの情報を写真、イラスト、文字、色分けなどを使って「見える化」することで理解を助けて混乱を防ぎ、子どもが落ち着いて生活や学習に取り組めるようにするための環境調整の一つです。
自閉スペクトラム症の子どもは話し言葉で説明されるよりも、イラストや文字などを見たほうが理解しやすく納得しやすいという特性があります。そのため、子どもが朝起きて学校に行くまでの一連の動作(「顔を洗う」「着替える」「朝食を食べる」「歯を磨く」・・・)と時間をイラストや文字で示して壁に貼っておくと、目で確認しながら準備できるので本人にとって安心につながります。また、部屋のエリアを「休む場所」「勉強する場所」「スケジュールを確認する場所」など、活動内容ごとに仕切りやカーペットなどで分けておくと、周囲の環境が整理されて、場所にあった活動に集中することができます。
ただし、いくら「見える化」しても保護者からの一方的な命令となってはストレスが溜まりますし、逆に子ども任せにしても、何か問題が起きれば保護者が制限をかけるので一貫性がなくなり、子どもは混乱してしまいます。命令や子ども任せではなく、保護者から「こうしてみたらどうか」とイラストや文字などを使って分かりやすく提案し、子どもがそれに納得して同意したらそれを活動の基本パターンにするようにします。子どもが提案を理解できなかったり、嫌がったりする場合には、別の示し方や方法を検討します。子どもと保護者の間で提案し、合意を得る経験を日頃からしておくと、自律スキルとソーシャルスキルが伸びやすくなり、親子間の信頼関係を深めるのにも役立ちます。
感覚過敏に対する配慮
自閉スペクトラム症の子どもの中には視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、痛覚などの感覚がとても敏感な子どもがいます。たとえば、近くを通る救急車のサイレン音でパニックを起こしてしまったり、学校の制服を嫌がって着られなかったりします。多くの方にとっては気にならない程度の刺激でも、本人にとってはとても強い刺激として感じられている場合があります。このような感覚のかたよりは本人も自覚していないことがあり、周囲から「わがままな子」と誤解されてしまいがちです。
感覚のかたよりは個人差が大きいので、まずはお子さんの生活をよく観察して、どのような刺激が苦手なのか確認することが大切です。その上で、苦手な感覚について、園や学校の先生に伝えておくようにしましょう。