メール便配達業務を軸にした当事者の手による作業所の運営
『なは倶楽部』(沖縄県那覇市)
3.自己表現力をつけるために-「つどい」の会
なは倶楽部では毎週水曜日の夜にメンバーが集まって語り合う会「つどい」を実施している。「つどい」は、対人関係が苦手な当事者の自己表現の訓練を行なう場としてふれあいセンターの時代に始められたもので、10年の長い歴史を有する。「つどい」の有意義な点が評価され、現在では県内20カ所の施設で同様の会が実施され、他県でも取り組むところが出てきているという。
濱川久美子さん
「つどい」では、毎週テーマを決めて、それについて自分の考えをしゃべったり、自己表現のために2分間スピーチをしたりします。あくまでも表現力をつけることが目的ですから、メンバーのしゃべったことに対して批評したり、批判したりすることはしません。
回を重ねていくうちに、自分の名前すら言えなかった人が名前を言えるようになったり、きちんと自分の考えを披露するようになります。そのことが自信となって、考え方も前向きになっていくという効果もあるんです。
自己表現の鍛錬がつどいの会の目的だが、当事者同士が語り合える場だからこそ話すことができ、共感できる部分も少なくない。「一般の人の前だと話せないことが、当事者同士の集まりだと自然に言葉が出てくるんです。当事者同士が語り合うということで何か心に響くものがあるのかもしれません」と長嶺さん。「つどい」がある種のピアサポート(当事者同士が互いに支えあうこと)的な機能を果たしていることを強調する。
ピアカウンセリングでメンバーの心のケア
なは倶楽部では、メンバーが抱える悩みの相談事業にも積極的に取り組んでいる。毎週金曜日をピアカウンセリング(当事者が当事者の悩みを対等な立場で聞きアドバイスするカウンセリング)の日とし、ピアカウンセラーの資格を有する濱川さんがメンバーの相談に応じる。
濱川久美子さん
一般的なカウンセリングと違って、同じ障がいを抱える仲間がカウンセリングするのでメンバーは話しやすいようですし、共感も得やすいところがあります。悩みを解決できなくても話を聞いてあげるだけで「ホッとした」って元気になるメンバーもいます。
毎日でも作業所に行きたくなるような雰囲気づくりを大切にしています。ピアカウンセリングをやっているのもその1つ。ここに来るのが楽しいっていうのはメンバーの表情をみればわかりますからね。
こうした細やかな心配りが濱川さんの魅力なのだろう。「濱川さんは大先輩であり、大親友。将来は濱川さんのような所長になりたいと思っています」(長嶺さん)というように、濱川さんを慕うメンバーも少なくない。
設立から2年が過ぎ、濱川所長を筆頭にメンバーの頑張りもあってなは倶楽部の運営は軌道に乗った。メンバー各人の名刺に刷られた『障害を持ちながらも自立と納得のいく社会参加を目指す』という言葉。その具体的なアプローチが、メール便配達業務をはじめとする収益事業であり、「つどい」である。自立と納得のいく社会参加に向け、なは倶楽部の挑戦はこれからも続く。
取材後記
『なは倶楽部』と小規模作業所の『わんから』は2006年秋に合併することを前提に「NPO法人ふれあいセンター」の申請を出したことを付記いたします。