ここちいい生き方がある

社団法人『やどかりの里』(埼玉県さいたま市)

3.職員主導の活動からともに創り合う活動へ

前回に引き続き「やどかりの里」の訪問レポートをお届けします。今回は実際にメンバーが働いている場所をお紹介します。

「やどかり情報館」(福祉工場)

「他の福祉工場と違うのは、ここは機械が仕事をするというよりも、企画で勝負するところが多く、それが売りなのです。(中略)・・・こういう福祉工場は日本中でたぶんここだけ」(「やどかりブックレット」より)という「やどかり情報館」は、主に出版・印刷事業を行う福祉工場です。
短時間労働を前提としていますが、仕事内容ではメンバーと職員の差がありません。実際におじゃましてみると、メンバーと職員が机を並べ、おだやかな時間のなかで仕事が進められていました。
精神保健法が制定されるまでは補助金が一切なく、職員の給料にもこと欠いていたような時代、職員が「自分の給料を自分で稼げと言われて」始めたのが出版・印刷事業でした。

精神保健法ができ、社会復帰施設となった現在も、目標は「補助金だけに頼らず、小さくても稼いでいくこと」(増田さん)。
実際には、なかなか収益というところまではいきませんが、「やどかりの里」の活動を多くの人に知ってもらえる「活字の力」は実感しているのだそうです。
出版物の印刷・製本を請け負う「やどかり印刷」も、最近は地域の人々からの注文印刷を受けるようになり、地域と「やどかりの里」との接点になっています。

「やどかり出版」では、メンバーが自分の体験をもとに企画をたてることから一つのプロジェクトが始まります。
企画から取材・編集・印刷・製本まで全てメンバーと職員との「協働」作業で進められ、企画は職員、作業はメンバー、といった“壁”がないのが「やどかり」流。共に意見を出し合って、何でも皆で決めていきます。
「こういうやり方は時間がかかるし、効率は悪い。でも、それに代わる価値があります」(増田さん)。

職員がメンバーの人間としての魅力を知り、一緒に働く喜びを感じたのも“協働”を通じて。「メンバーは薬の影響や病状によって集中できる時間が違いますし、眠気にも襲われますが、本当はとても高い能力を持っています。互いの違いを認め合う働き方が大事ですね」(増田さん)。
いまやベテラン従業員として欠かせない存在になっている人、いずれは一般就労したい人、とさまざまですが、「やどかり情報館」では何年で一般就労、というような目標(ゴール)は設定していません。
「ここがゴールなら嬉しいし、一般就労したいのなら応援したい。・・・ゴールはそれぞれ本人が決めることではないでしょうか」(増田さん)。