自分たちで創り上げてきたバレーボールチーム
『あぶやまワンハーツ』(大阪府高槻市)
2.精神障がい者だってここまでできるんだ
こうして初めて挑んだ大会で味わった敗北の悔しさをバネに、今までのデイケアのプログラムとしてではなく、メンバーですべてを自主的に運営していく新しい活動として“あぶやまワンハーツ”は再スタートを切った。メンバーたちは練習場となる市の体育館の予約も自分たちで取り、週1回3時間近い練習を欠かさずに続けてきたのである。「当時は、ただただ勝つことだけを考えてがむしゃらに頑張っていましたね。きつい練習に途中で辞めていくメンバーもいましたから、それは気になりましたよ。でも、練習を続けているうちに皆の顔や声など、1つの目標に向かっていく姿勢に私自身も感動し、残ったメンバーの気持ちを1つにして練習に打ち込みました」と平井さん。監督である高谷氏、コーチである岡村氏も想像以上のメンバーたちの頑張る様子に驚いた。
高谷 義信氏 新阿武山病院PSW、あぶやまワンハーツ監督
3時間近い練習はつらいものです。それをメンバーは本当によく頑張ってきたと思います。メンバーが自主的に始めた当初は、実を言うとわれわれ職員もここまでやれるとは思っていませんでした。今では他の病院や作業所の方が見学に来られるようになりましたが、激しい練習を見て皆さん本当に驚かれますからね。この3年間の活動を見てきて、全国大会のように、チャレンジできる場や機会があればこそ、それを目標に継続してやってこれたと思います。
岡村 武彦氏 新阿武山病院院長、あぶやまワンハーツコーチ
メンバーがきつい練習をこなすことができる理由の一つに新しいタイプの薬の効果もあることは間違いないと思います。従来タイプの薬ではこれほどの長時間の運動は考えられませんでしたが、新しいタイプの薬に代わってからはメンバーの動きもスムーズで反応もよく、また集中力も出てきたのではないでしょうか。薬以外に、スポーツをすることでもスポーツをすることで統合失調症の患者さんの認知機能や運動機能が改善することが期待されていますが、あぶやまワンハーツのこれまでを振り返ってもそうした効果を強く感じます。
惨敗した大会から1年後、練習の成果は実り、近畿ブロック予選大会の第1戦目で初勝利。そしてその勢いに乗って見事に優勝も果たしたのだ。メンバー自らが悔しさを糧に、自分たちの手でつかみとった勝利だった。