自分たちで創り上げてきたバレーボールチーム
『あぶやまワンハーツ』(大阪府高槻市)
3.チームの仲間,そしてライバル
あぶやまワンハーツの快進撃はその後も続き、翌年の近畿大会も優勝した。「2年目の近畿大会は1戦1戦ただ勝つことだけで優勝を意識することはありませんでしたが、あれよあれよという間に勝ち残って優勝してしまったという感じでした。この初優勝は本当に運がよかったんやと思っています。でもね、3年目、2 回目の優勝は自分たちの実力で掴み取ったものだとはっきり言えますね」(平井さん)
試合のメンバーになること
あぶやまワンハーツのメンバーの経歴はさまざま、病状もそれぞれ違う。それでも練習場では一緒に同じメニューをこなし、勝利を目指している。平井さんは「自分の嫁さんも一緒に練習に来ていますが、試合のメンバーにはなれません。メンバーの個々のレベルはとても高いんです。」とメンバーの実力を評価する。
チーム結成当初からのメンバーで、アタッカーとして活躍するのは倉町昌之さん。常にアグレッシブなプレーであぶやまワンハーツを引っ張ってきた。
倉町昌之さん あぶやまワンハーツ・メンバー
自分のモットーは負けてもいいから自分たちのバレーボールを貫くこと。とにかく失敗を恐れずに挑んでいくことです。思いっきりスパイクを打ちつけて決まったときは本当に気持ちいいですね。スカッとします。バレーボールをやっているときには自分が病気だってこと忘れるぐらい、それほど調子がいい。バレーボールをやりたいから薬をきちんと飲んでいます(笑)。みんなが1つになって同じ目標に向かって頑張るのっていいですよね。実はね、練習日以外にも自分で運動したりしていますよ。やっぱりレギュラーでいるためには努力しなくっちゃね。
メンバーの喜多川ひろしさんは、以前に精神障がい者バレーボールチームの強豪「幕張ベイドライブ」に在籍していたが、仕事の関係で千葉から大阪に転勤となり、あぶやまワンハーツに“移籍”した。高校時代には名門ラグビー部で主将を務めたほどのスポーツマン。跳躍力を活かしての強烈なスパイクの持ち主だ。
喜多川ひろしさん あぶやまワンハーツ・メンバー
喜多川ひろしさんは「前のチームでは主将だったから試合中に控えのメンバーをいつ投入するか神経をつかって大変だったけど、ここでは監督と主将の平井さんがやってくれるからプレイに専念できて、とても気が楽です。でも平井さんはチームのまとめ役で本当に大変だと思いますよ。全国大会で古巣の幕張ベイドライブと対戦することができたら楽しいですね」と言う。
セッターとして活躍するのは古谷友香さん。小学校高学年から中学までバレーボールの経験があり、メンバーからは他の精神障がい者のバレーボールチームには彼女ほどうまい人はいないと言われるほど。
古谷友香さん あぶやまワンハーツ・メンバー
古谷友香さん(メンバー)は「練習はきついです。練習が終わったあとは何もできないくらい疲れているので、コンビニで買ったおにぎりをバス停で食べて夕食にしてしまいます。私は友人に誘われてあぶやまワンハーツに入ったのです。その友人は辞めてしまいましたが、私が辞めなかったのは、バレーボールが好きだからです」できれば全国大会で優勝したいと語る。
どんな社会にもある人間関係の苦労を経験してほしい
レクリエーション活動と違って、勝負にこだわるチーム運営には厳しさがつきものだ。「健常者だったら強く言えることでも、僕たち当事者はストレートな言い方では傷ついてしまうことがあるので、言葉の使い方には神経を使います」と平井さん。特に対人コミュニケーションが苦手な精神障がい者の場合にはそこがネックになりそうだが、コーチの岡村氏の考えは違う。
岡村 武彦氏
競技スポーツは勝負ごとですからメンバー同士うまくいかないこともあるでしょう。人間関係の調整は難しいところもあるでしょうが、人間関係は社会のどんなところにもありますから、社会復帰の課題の一つとして、メンバーのみんなには、バレーボールを通して、人間関係のいろいろな苦労を経験し、対処する力をつけていってほしいと思っています。