精神病患者が働く本格的なフレンチレストラン
『ほのぼの屋』 (京都府東舞鶴)
3.ほのぼの屋で力をつけて巣立っていってほしい
ほのぼの屋は一般のレストランと違わぬ形で営まれているが、あくまでも授産施設。「働くメンバーたちにはここで力をつけて、どんどん外に出て行ってほしいですね」と材木氏は語る。実際、ほのぼの屋を巣立って外に就労するメンバーはいる。だが、一般の就労となるとそう生易しいことばかりではない。ほのぼの屋から看板屋さんに一度就職した経験をもつ六田さんは一般就労の難しさをこう語る。
六田宏さん
精神障がい者であることをオープンにして就職口を探しても面接に応じてくれるところはほとんどありません。たまたま面接に応じてくれたのが看板屋さんだったので就職したのですが、実際に仕事をしてみると制作ではミリ単位の細かい精度が要求されるし、取り付けでは不安定な足場に登らなくてはならなくて危険だったりと大変でした。半年間は頑張ったのですが、きつい作業の連続で症状が悪化し、結局、辞めざるを得なくなりました。一度、就労してみて、無理をして苦手な仕事を選んでも長続きしないんだって思いましたね。健常者なら歯を食いしばって踏ん張れても、精神障がい者だと症状が悪化してしまいますから。
一度、就労で苦い経験をした六田さんだが、もちろん就労をあきらめたわけではない。六田さんはほのぼの屋で一緒に働いていたメンバーと結婚し、2児の父親でもある。一家の大黒柱として自覚もあり、一般就労に対する想いには並々ならぬものがある。「運転するのが好きなので運送関係の仕事がしてみたいですね。病気とうまく付き合いながら、慌てずにじっくりと自分に合った就労先を考えていきたいと思っています」と語る。
近久さんも将来的に一般就労を考えているメンバーの1人だ。
近久学さん
できればほのぼの屋での経験が活かせる飲食関係の仕事に就きたいです。直接、接客するのはちょっと僕には合っていないので、厨房での皿洗いのような、黙々とできる仕事があるといいですね。そのためにも、ほのぼの屋のメンバーとして早く一人前になれるように頑張りたいと思っています。
メンバーが外に出て就労すると、「次は自分も」と考えるメンバーは少なくない。しかし、六田さんの例にみるように、必ずしも精神障がい者の雇用に理解があって、業務に配慮してくれる事業者ばかりとは限らない。「社会適応訓練事業のように当事者が就労体験を積めるよい制度がありますが、制度期間が過ぎてそのまま雇用されるというケースは少ない。本当の意味での当事者の就労を考えるのであれば制度としてもっと違うアプローチを考える必要があるのではないでしょうか」と材木氏は語る。
「障害者がいきいきと働ける場所を」という理念のもとにほのぼの屋がオープンしてはや4年が過ぎた。オープン時に新聞の折り込み広告を出して以来、その後は1度も宣伝活動はしていないという。それでも連日、たくさんの客で賑っているというのは地元住民に愛されている店であるという何よりの証拠だ。「お店をオープンさせるのも大変でしたが、これだけのお客さまに愛されているお店を続けていくのはもっと大変です。お店を発展させていくと同時に、メンバーたちが成長し巣立っていけるというのが、われわれスタッフの願いでもあります」と語る材木氏。「ほのぼの屋」の挑戦はまだまだ続く。
cafe restaurant ほのぼの屋
京都府舞鶴市字大波下小字滝ヶ浦202-56
TEL 0773-66-7711 FAX 0773-64-0002
定休日 毎週 水曜日、第1・3・5火曜日
http://www.honobonoya.com/